ひとりぼっちの唐松岳(2000年3月31〜4月1日)
メンバー 王様

 冬の八方尾根では、以前、辛い目に遭っている。
  3月だった。唐松山荘から降雪中の下山で、尾根上部の雪庇を踏み抜いた。山スキーで雪を切って、雪崩を起こし、雪と一緒に流れた。強風でテントがぺちゃんこになり、ポールが折れた。これらのことが、同一日に起こったのだ。コエー。
 夏の八方尾根は、花の美しい、極楽の ような所なのにね。
 このところ、大人数での山行が続いている。たまには、一人静かな山行をしてみたい。どこに行こうか、いろいろ考えた。冬枯れの奥秩父、いいなア。白い八ケ岳、いいなア。巻機山を滑るのもいいなア。
  八方がひらめいた。前回は、唐松山荘 にテントを張って、天候不順だったから唐松岳には登らず、下山し、その途中で前記、悪夢の三連チャンがあったのだ。
 雪の唐松岳に、登ってみたい。
 ガラ空きの急行アルプスから、白馬駅に降りる。とりあえず、暖房の利いた待合室で、行動食(いつものようにおにぎり8個、米二合分)で朝飯。時間があるので、ゴンドラ駅まで歩く。チケット売場でザックを計ると、17キロ。荷物代もしっかり取られた。ゴンドラを降りて、更にリフト1本乗る。最上部、八方池山荘までのリフトはまだ動いてないので、シール登行。
 (9:00)八方山池山荘に着いたら、スキーヤーがどんどん登ってきた。天気は快晴。数多の山々が見える。
 登山者は、6人組の高年隊。日帰りの山スキーニ人組と若年スノーハイク5人組。孤独を愛する私は、どんどん先を行く。風も弱く、暑い。真っ青な空の下に、後立山の山々が美しい。雪は、3日前に降った、とスキー場の人が言っていた。凍った雪の上に、新雪が積もったら、雪崩が怖い。
 (10:00)下の樺に着、大休止。テントを張る。尾根から少し風下に、雪を切って均してダケ樺に張り綱をしっかりと結わえた。八方尾根で樹木があるのは、ここと上の樺だけ。高年6入隊も尾根上にテントを張る。
 (10:50)荷を軽くして、唐松岳を目指す。風が出てきた。上の方は、雪煙が舞っている。上の樺のその上からは、真っ白な広々とした斜面だ。日帰り組は、ここらで引き返したようだ。白い大きな尾根を、ひたすら登る。シュカブラが大きくて、波打っている。
 (11:35)丸山ケルンを少し登った平地にスキーをデポする。ここから先は、尾根が狭くなる。上から雪煙が、地を這うように流れ落ちてくる。まるで飛行機に乗って、雲の上をかすめている感じだ。尾根には、私の足跡だけが真っ直ぐついている。後続のパーティは、ずっと下の方だ。やせた稜線も、雪庇はそれほど発達していない。夜行の疲れが出てきて、足が重い。眠くなる。この調子では、今回もまた、唐松岳には行けないのかな、と思いつつ、13時には引き返そう、と決めて歩く。
 ひょっこり唐松山荘の上に出た。眼前には毛勝、剣、立山が並んでいる。まだ、12時半。以外に早く着いた。一度下って登り返し、(12:55)唐松岳山頂に着いた。例によって、365度の大展望だ。日本海の海岸線も、ウッスラと見える。振り返れば、八方尾根がドテッと大きい。たった一人の山頂というのは、実にヨイ。
 (13: 10)寒いので下山する。下りは早い。高年パーティとすれ違うとき「ラッセルありがとう」と言われた。彼らが山頂にたどり着くのは、14時を過ぎるだろうな、ちょっと余計な心配をする。
 デポ地まで降りて、スキーを付け、待望の滑降となる。例によって、超ヘタ。雪面が波打っている。右のターンはいいが、左の板にはキチンと乗れていない。顔面からコケたりする。慣れてきた頃、(14:10)下の樺に着いた。
 それからは、ノンビリ、お茶を飲んだり、昼寝したり。単独行の時は、私はノンアルコールなのだ。日が長くなっている。テントから顔を出せば、遥か雲の上に浅間、四阿山、志賀の山々。近くには、火打山、妙高山、高妻山など見飽きない。
 16時頃、高年6人組が帰ってきた。真っ白な雷鳥がひとつがい、テントの周りを歩いている。(グェグェ)
 超豪華ラーメンと残ったおにぎりで夕食を済まし、早々に寝た。その後、風が出てきた。
 風の音で、目が覚めた。夜中、1時半だ。だいぶ強まっている。が、まだ風に息がある。息の間に、眠りに落ちる。
 4時頃、もの凄い風の音で目が覚める。それから、日の出までの1時間半ほどは、風の息も何もない。テントを揺さぶられっぱなし。寝てなんかいられない。テントが浮き上がりそう。張り綱は、ダケ樺とスキー板でしっかり固定してはいるが、その綱が切れたら目の前の急斜面をダイビングだ。ちょっと恐怖。
 朝日が出て、少しは風も弱まった。乳色のガスの中にオレンジ色の太陽が浮かんでいる。美しい、ありがたい。しかし、尾根上は雪煙が舞って真っ白だ。何も見えない。風の弱まるのを待つ。腹が減ったが、超豪華ラーメンなんか作ってられない。パンと紅茶で済ます。時々テントから首を出す。そのたびにテントの中は、雪が吹き込み真っ白。時折、風が弱まると下の尾根が姿を現す。しかし、またすぐ消える。
 高年6人組が、いつの間にやら出発していた。それではと、私も出発の準備をする。強風の中でテントを畳むのだから、スッタモンダがありました。
 (7:30)下の樺を出発。スキーで滑るどころではない。両手に板を持って歩く。風に煽られヨタヨタする。6人組にはすぐに追いついた。彼らは、風が強くなる度に、耐風姿勢を取っているからなかなか進まない。ルートは、踏み跡が氷化しているから、わかりやすい。吹き溜まりでも、風の弱まるのを待てば、赤布が確認できる。蟹が這いつくぱったように6人が耐風姿勢を取っている横を、スタコラ追い越す。なんか可笑しい。八方池山荘の屋根が見えて、一安心。
(8:05)ハ方池山荘着。距離にして、2kmもないが、中身濃い。八方スキー場のゲレンデは風で吹き寄せられた雪が、深雪状になっている。私が滑り降りた後には、斜面に美しいシュプールが描かれていた(ウッソビョ〜ン)。
 (8:45)名木山ゲレンデを快適に滑り降りて、満足。下は、春の太陽が眩しい。八方は良いところだが、怖い。自然は侮れない。  


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