赤岳主稜(2009年)
メンバー、(L)NK、王様


 前年の同じ時期に赤岳主稜を目指し行者小屋に来たのだが、その時は風邪を引いてしまった。。重荷を背負って登り、行者小屋のテント場で1日中寝ていた。主稜に登れない悔しさより、早く麓に下りたかった。主稜を登った皆の高揚した会話を聞きながら、重荷を背負って下った。下を向いてひたすら歩くだけ。最悪の山行だった。こんな辛い山行はなかった。
 リベンジせねばならない。誰と行くかが問題だが、年末の忘年山行で越沢バットレスのアイゼントレーニングに出かけたとき、NKちゃんに誘いをかけた。快く了解してくれた。前年の敗退を知っていたので「今年も行くのだろうと思ってました」と言う。
 それよりも問題なのは、私は岩登りが得意でない、特に雪稜は経験が少ないということが問題なのだ。12月は、越沢バットレスでアイゼントレ、1月になって日和田でマルチピッチの練習したのだが、練習不足は否めない。それでもその日はやって来てしまったのだ。

1月24日
 朝、荻窪駅からWT車に乗車。今週末は、会の八ヶ岳集中山行なので他にも同行者がいる。中央道を行くと、雲行きはあまり良ろしくない。風も強い。
 美濃戸山荘の下まで車で入れたので、1時間の歩きを楽できた。
 さてそれから重荷を背負って歩き出すのだが、ホントに重い。テントとガチャ類で最近に無く重い荷物になった。それでも去年に比べたら、体調が良い分ゆっくりではあるが確実に歩いてゆけて、気分が良い。微風。
 途中で南沢大滝を見物して、行者小屋のテント場に着いた。ここは私の好きなテント場なのだ。雲はどんどん取れて美しい景色が頭上に広がってくる。
 集中山行は、阿弥陀北稜、縦走組など4張りのテントで賑やか。私たち二人は、縦走組のテントで夕食をご馳走になる。キリタンポ鍋である。
 26日まで休みなので明日中に帰京しなくてよい。明朝は7時か8時に、ゆっくり出かけようという事になった。

1月25日
 朝食は、トムヤムクムスープ雑炊。酸っぱ辛い食べ物は、すっきり目が覚める。
 行者小屋を出発したのは7時40分。ゆっくり登って行く。文三郎のトラバース地点には8時30分に着いた。阿弥陀北稜は朝日を受けて明るい。体は暖かくなった。
 大きな黒い雲の固まりが1つ通り過ぎたら、快晴の空になった。しかし風が強い。山頂付近は雲が凄い早さで流れて行く。暖まった体が急速に冷えて行く。
 登り始めている人が4人、取り付きには5人見える。我々が最後のようだと思って、取り付きまでトラバースして、不安定なところでザイルを結ぶ。大分待たされる。もう少し遅く出発しても良かったのかなぁ、と思ったりする。風が吹き付ける。寒い。後からガイドと1人の客が追いついてきた。
 いよいよ我々の番になった。1ピッチ目は、当然NKちゃんの出番である。いきなりの核心部であるから体が慣れていない。チョックストーンを乗っ越したNKちゃんは、ルンゼから這い上がり、リッジを右に巻いて消えて行く。「ビレー解除」の声がして、王様が登る番だ。緊張するなぁ。
 チョックストーンは、腕を伸ばしてガバを掴んだり突っ張ったりして意外と簡単に越えられた。ホッとして、後は階段状ですぐに最初のピッチは終わった。
 2ピッチ目は王様がリードの番だ。目の前は垂壁の様な感じで「どうやって登るのかなぁ」、と見回したら、左が階段状に見える。回り込んだら簡単に行けた。右上すると岩にシュリンゲがかかってあってビレー点の様なのだがちょっと近すぎる。上を見ると傾斜が緩くザレた斜面なので、そのままズルズルと登る。ダブルロープでラインも曲がっているのでザイルが重い。結局ザイル一杯近く登って岩にビレーした。NKちゃんが登ってきたら、もう10時になっていた。その間にガイドパーティが追い越して行く。我々は最後になる。景色は素晴らしい。
 3ピッチ目は、2人してザイルを担いで、スタコラ登って中間の岩場に到着。ここでも待たされる。その場で、上り下りして位置を変え、写真を撮りあった。そんな傾斜と広さがある。
 4ピッチ目は、NKちゃん、中間の岩場を登る。すぐ上にピンが打ってあるが、そんなものは必要ない。階段状をどんどん登る。ザイルいっぱい登って大岩にビレー。この辺りから王様は足の感覚がおかしい。足がムクんでいるようでモコモコしている。感覚があるのは踵だけだ。
 5ピッチ目。王様はNKちゃんを追い越して、雪壁を登って、上部岸壁の取り付きに辿り着く。ザイルを引き上げる手の握力が萎えてくる。ここでは待たされた。5人が待機している。セルフビレーをとっているから動きも制限される。寒い。登っている間は体は熱くなる。しかし止まるとどんどん冷えてくる。ここで11時15分頃か。
 目の前のクライマーは何か食べている。我々は朝食の雑炊以来何も食べていないし、何も飲んでいない。しかし食欲はない。ひたすら待ち続ける。先行パーティは2人一組で登って行く。正12時になって太陽が頭上に現れた。暖かい。
 6ピッチ目。1時間待ってやっと登れる。満を持してNKちゃんがスルスルと登って行く。コールが届かない。ザイルの動きを見て、適当なところで王様がフォローする。陽があたって暖かい。岩には雪が着いていない。暖かい岩を登る。結構垂直な岩を登る。ピンのあるところまでは易しいが、その上のルンゼ状はチョイと厳しい。リードするなら手袋を脱ぎたい感じ。NKちゃんの所まで登ると、大分上まで来た感じだ。頭上には急な雪壁とその上にチムニーが見える。
 7ピッチ目。王様の番。傾斜の急になった雪壁を登る。高度感がある。チムニーの下にハーケンが上下2カ所打ってあったので、そこでピッチを切る。
 8ピッチ目。NKちゃんが雪壁の狭いところで、王様を追い越してチムニーを登って行く。展望抜群の尾根状の所に着いたら、岩登りはそこで終わりだった。
9ピッチ目。ザレた雪の斜面を登って、従走路に出たら5分で北峰山頂だった。13時30分になっていた。南峰まで行き、風をよけて行動食を食べた。目の前には富士山が完璧な姿で佇んでいた。
 文三郎経由で、下る。登ったルートを眺めながらノンビリと下って、行者小屋に着いたのは、15時30分。もう一晩ここに止まるので気分は楽だった。しかし手足の指先全部が痺れている。

1月26日
 手足の指が痺れているのに、南沢小滝でアイスクライミングをして帰ってきた。


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