楢俣川・ススケ沢(2011年7月16〜18日)
メンバー 王様、こーき、泉、太郎


 2008年秋、楢俣川から前深沢を遡行した。その帰りに京都のパーティがススケ沢を遡り下降してきたところに出会った。楢俣川がとても美しかったので、その奥はどうなっているのだろうと、興味がわいた。
 翌2009年、アサユウ沢を遡り、山奥の池と湿原を堪能して帰ってきた。深山の湿原と池は脳細胞に固着してしまったのである。もはやススケ沢の奥の湿原を見に行くしかないのである。
 しかし今回、泉Lの当初計画は中門沢だったのである。袖沢林道を歩いて行く予定だったのだが、今年は雪がかなり残っているらしい(まだ7月中旬ですからね)、ということで快適な沢登りが出来そうもない、ので中止になり、代替案としてススケ沢に行こうとなったのである。
 代替案などという不遜な心構えでいいのか。準備というか、気合いというか、が十分であったかとなると多少疑問のある出発であった。そして肝心の天気の具合はあちこちで豪雨があり芳しいものではなかった。前泊場所は、トイレが新装になった土合駅だ。

<7月16日>行動時間(休憩含む)5時間16分
楢俣湖林道ゲート(08:00)〜ヘイズル沢出合(09:58)〜 狩小屋沢出合(10:19)〜楢俣川本流入渓(10:48)〜矢種沢出合(11:14)〜深沢出合(11:57)〜日崎沢出合(12:27)〜テント場(13:29)

 奈良俣湖畔のキャンプ場に向かう立派な舗装道から、右へゲートで閉じられた舗装道を歩き尾根を一つ越える。よりによって快晴、7月の太陽なのだ。25分ほどで笠ヶ岳への登山道となる峠の十字路に着く。ここでもゲートを越える。遠く南に上州武尊らしきが見える。ダラダラ下ると釣り師達が帰ってくるのに出会った。小奈良俣沢あたりで釣っていたらしい。
 炎天下、ダム湖畔の道をただひたすら歩く。我々の歩みは普通だが、男女二人パーティに追い越される。
 ヘイズル沢は本流と見間違う立派な沢だ。その先、こぢんまりとした狩小屋沢を渡ると、すぐに楢俣本流に降り立つ。男二人パーティがいる。今回は、計8人が入渓ということなのであろうか。木陰と沢風の涼しさに、ノンビリと沢支度をする。
 矢種沢出合まで前回(秋でした)は右岸の山道を辿ったが、今回は沢通しに行く。流れの強い淵があったりして楽しく遡行する。矢種沢から前深沢の出合あたりまでは、楢俣川の白眉といえる美しい所だ。あの炎天下の辛いアプローチを記憶の彼方に消し飛ばしてくれる。
 その先は平凡になる。何とはなしにテン場を探して歩くようになる。本当はススケ沢まで進んでおかないと明日が大変なのだが・・・。日崎沢を過ぎて右岸にブナに囲まれた美しい平地があった。13時を少し過ぎたばかりだがこれまでとする。日は長い。ノンビリと焚き火をする。シーズン始めの焚き火は懐かし嬉し。

<7月17日>行動時間(休憩含む)14時間25分
テント場(05:23)〜ススケ沢出合(06:23)〜2段19M滝(06:57)〜スノーブリッジ(07:12)〜ゴルジュ〜2段15M大滝(07:24)〜雪渓(07:48)〜雪渓巻き(08:42〜09:23)〜稜線(10:28)〜ススケ峰湿原(11:42〜12:00)〜奥ススヶ沢下降開始(12:10)〜C1740湿地帯(13:11)〜10M滝懸垂下降(13:40)〜楢俣川本流出合(14:31)〜オミキスズ沢出合(14:54)〜大高巻き開始(15:08)〜稜線(15:38)〜南沢右岸尾根1680m(16:51)〜1400mビバーク点(19:33)幕

 今日は長い1日になりそうだ。泉Lは足の具合が悪いということで、軽い荷物で3人で出かける。平凡な沢を遡ると、右岸からモヤが沸いてる沢が出会う。上部に雪があることを思わせる。1時間ほどでススケ沢に出会う。
 ススケ沢に入って初めはあまりきれいな沢ではない。小滝を越えて20分も行くと雪のブロックが転がっている。2段19m滝は左のリッジを中段まで登り、ブッシュを掴んで右上して滝上に出た。小滝があり、側壁の泥斜面には水芭蕉やシラネアオイが咲いている。
 沢にモヤが充満してきた。果たして前方にスノーブリッジが出現した。それは薄いが崩壊しそうな気配はなかった。潜り抜けることにして私はカメラを構えた。太郎が走る、続いてこーきちゃんが走る。ブリッジの先は右に曲がって緩やかな4mほどの滝が落ちてくる。太郎が潜って滝右のリッジに取り付く、続いてこーきちゃんが走る。リッジに取り付く直前に、スノーブリッジの手前半分が崩れ落ちた。カメラを構えた私の目の前にブロックが散乱した。幸い直撃は免れた。かなりのビビリものである。問題は一人残った私である。更に薄くなったブリッジを通過しなければならないのだ。意を決して走る。沢水が浅かったので素早く潜ぐれた。3人合流。こーきちゃんの腕は震えている。少し行くとその先がゴルジュになって滝が現れる。その時背後でドドーンという音がする。スノーブリッジが崩壊したようだ。
 これらの経過中、私は不思議に恐怖心を感じなかった。頭の中は、雲上の湿原見たさ、しかなかった。先の楽しさばかり考えて、現実の危険を無視しているのだ。それはこの先も続く。それ自体が危険なのだが・・・。こーきちゃんは引き返すことを提案しているのだが、私の耳には入らない。「もう少し様子をみよう」などと言いながら先しか見ていない。引き返す気は無いのだ。
 ゴルジュの先の滝の手前で先行する男2人組が休んでいる。追い越して滝は右の壁から高巻く。細かいフェースを登り、イヤらしい草付きをトラバースして滝上に出た。
 その先にも雪渓は出てくる。目の高さの雪渓は、右壁のブッシュを掴んで越える。沢は狭くなりブロックがゴロゴロしている。
 1550m付近であろうか、沢一杯に雪渓がある。左に曲がってその先が見えない。左の藪に這い上がって先を見るが急な崖でどん詰まりになっている。下に滝が隠れているのだろう。雪渓通しに行って這い上がることは不可能だし、第一雪渓には登りたくない。右から急な沢が入ってくる。これを登るのは厳しそうだ。方角も違う。もはや撤退気分だ。
 しかし私の提案は左の藪を漕いでトラバースしてみよう、というものだった。天気は良い。沢の中と違って藪は笹とブッシュで新緑が美しい。美しいトラバースをしていると右下前方を男2人組がやはりトラバースしている。
 巻終わって沢に下りると流れは細く、源流の様相だ。沢は細いスラブ状になり高度を稼ぐ。水を補給したりして1時間ほどで稜線に着いた。予定より右側に登って10時20分、1800mの藪尾根にたどり着いた。目の下には尾瀬の岩塔盆地、南には至仏山が見える。私は何処であれ尾瀬ヶ原を俯瞰する位置が好きだ。鳥のようでかなり気分がよい。
 ここから北へススケ湿原を目指す。藪が続く、どこまで続くか分からない藪だ。尾根が右に緩やかに曲がっている。その先に平らなところが見える。アレが湿原か?それにしても遠いぞ。帰りの藪こぎもあることを考えると、12時には下山することを決めて更に進む。
 それからひたすら1時間20分の藪こぎで乾いた小さな湿原にたどり着いた。目的は達せられたと思ったが、しかし池塘が無いし狭い。前方を見ると一段高いところがまた平になっている。登ってみる。あった、あった。広々とした湿原、池塘が点在し、その先に景鶴山がある。湿原を歩き回ってみる。小さなきれいな花が咲いている。主流はワタスゲだ。湿原は緩やかに尾瀬ヶ原の方に下っている。そちらの方に行ってみる。雲上の楽園だ。1年間に何人も訪れる人はいないだろう雲上の楽園。幸せな気分だ。二度と訪れることはないだろうが、下山する時間になった。わずか10分の滞在でお別れ。
 正12時に下山開始。奥ススケ沢を目指す。平らな藪の中に、来るときは見かけなかった小さな湿原があって南西方向に下って行く。左方向に下ればよいのだが、なかなかそうは行かない。奥ススケ沢から右にずれて、1746m付近の台地に降り立つ。ここは泥田のようなところで水芭蕉が咲いている。現在地が分かったので、ここから南西に等高線の凹みを辿って藪沢を下ると狭い沢に合流。記録にあった懸垂下降をして奥ススケ沢であることを確認し、14時30分楢俣本流にたどり着いた。
 大分時間は過ぎているが、日は長い、ひたすら下ればテント場に着く、という安心感に包まれて大休止。
 水流が多くなった本流を遊びながら下って1430m、沢が左に屈曲した下方に巨大なスノーブリッジが出現した。這い上がることも不可能だ。絶体絶命。左岸の尾根を登ってエスケープしようと2カ所ほど這い上がったが、抜け上がることが出来ない。
 少し戻るとルンゼがあって階段状の岩だ。上を見るとブッシュの中に消えている。そこを80mほど登ると藪の稜線に出る。中沢を夾んで対岸にススケ沢右岸の尾根がある。中沢を下っても雪渓がある可能性があるのでススケ沢右岸尾根を下るしかない。遠い。とりあえず1680mまで登らなければならない。藪を漕ぎ、途中細い沢を辿り、水を補給してまた藪。1時間10分くらいの登りでピーク。マザーツリーがあった。
 ここからススケ沢右岸尾根を下る。何処まで行けるのやら。ビバーク必至である。初めは尾根も広くて藪の中をヨタヨタ行くが、尾根はすぐに狭くなる。そして尾根上に針葉樹の巨木が点在するようになる。右は笹で中沢に落ちている。左はススケ沢へ崖っぷちだ。一本ずつ巨木の根方を巻きながら行く。疲労は増す。2時間半ほど下った1400m地点でビバークにする。19時半を過ぎて薄暗くなっている。狭い尾根に3人がそれぞれ木にセルフビレーを取り、着の身着のままザックを敷いて寝る。行動食は残りがパン1ヶだから、明日に取っておいて水を飲んで寝る。レスキューシートがあったのを思い出して体に巻き付けて寝る。大分暖かかった。
 

<7月18日>行動時間(休憩 3時間 含む)10時間00分
1400m ビバーク点(04:43)〜ススケ沢出合(05:09)〜天場(06:15〜 09:10)〜楢俣川下降 〜深沢出合(10:16)〜楢俣川本流入渓点(11:21)〜 ヘイズル沢出合(12:00)〜楢俣湖林道ゲート(14:43)

 薄明るくなったのでそそくさと準備して下る。すぐにザラザラの急斜面だがブッシュがあって、それを掴んでどんどん下れる。30分ほどでススケ沢の出合に着いた。ホッとして行動食を食べる。あとは来た道、泉さんも心配しているだろうから、黙々と下る。1時間ほどでテント場に着いた。心配をかけてしまった。
 朝食を摂り、2時間ほど睡眠を取ってから、下山となったのである。また美しい楢俣川を下って帰途についた。


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